遺留分のはなし(後編)

不動産/建築用語

『遺留分のはなし』後編です。

前編では、遺留分とはそもそもどういうものかについてお話しました。

後編では、遺留分の侵害を受けたとき、その請求はどのように行うのかや、遺留分侵害額請求権の放棄について考えてみたいと思います。

遺留分のはなし(前編)はこちらからご覧ください↓

遺留分を請求する

遺留分を請求する際に決まった方法はなく口頭、メール、手紙等どの方法でも構いません。但し、遺留分侵害額請求権には時効があるので、時効を止める為に口頭で話し合っていたとしても配達証明付き内容証明を送る方法が一般的です。

遺留分侵害請求の時効

遺留分侵害額請求の時効になる場合は2つ。

  1. 遺留分の侵害を知った日から1年
  2. 相続の開始から10年

この期間内に請求を行わないと、請求権が消滅してしまうので、注意が必要です

請求書を送ったら、相手と話し合って遺留分侵害額の精算方法を取り決め、支払いを受けることになります。

内容証明を送っても無視される場合や、話し合いで合意できない場合は家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申立て、調停委員会の仲介のもと話し合いを行います。それでも合意できない場合は地方裁判所で遺留分侵害額請求訴訟をおこすことになります。

遺留分を放棄する

遺留分放棄とは?

遺留分の権利者が自分の持っている遺留分の権利を自ら手放すことを遺留分放棄といいます。

相続が開始する前と開始後のどちらでも行うことが出来ますが、相続開始前に行う場合は家庭裁判所の許可が必要になります。

例1:

被相続人が不動産賃貸業を行っていて、主な財産がマンションという場合。

被相続人HはYを後継者とし、財産の全てを継がせたいと考えています。もし、X、Zが遺留分を請求するとマンション経営に支障をきたすとしたら…?

XとZに遺留分を放棄してもらい、そのうえで財産をすべてYに残すという遺言書を書けばYに全財産を継がせることが出来ます。

例2:

被相続人Hは配偶者Xと子Zに遺産のほとんどを残すという遺言を残した場合。

Yの遺留分は侵害されていますが、Yは以前被相続人から自宅購入の援助を受けており、また経済的にも余裕がある為、遺産の多くがXとZの相続となっても異論は無いとしたら…?

相続開始後、Yが遺留分を放棄し、遺留分侵害額請求を行わなければ、そのままHの遺言通りに遺産分割が行われます。

例1の場合 相続開始前に遺留分を放棄する

被相続人が生きている間に遺留分を放棄するためには、裁判所の許可が必要になります。手続きを行う際は、相続人本人が所轄の家庭裁判所に申し立てを行います。

引用:『家事審判申立書(遺留分記入例)』裁判所HP『遺留分放棄の許可の申立書』より*画像をクリックすると大きくなります          
用意するもの
  • 申立書(左図)
  • 収入印紙(800円)
  • 連絡用の郵便切手(通知書の送付用)*必要な郵便切手は家庭裁判所ごとに違うので、確認が必要です
  • 被相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)

*その他審理のために必要があるときは、その他の書類を提出するよう指示がある場合があります

申し立てを受理した家庭裁判所は、申立人(遺留分放棄をする相続人本人)から聞き取りを行い、遺留分放棄の許可、不許可を決定します(遺留分放棄許可の審判)。

許可の基準
  1. 誰かから強制されたのではなく、自分の意志で放棄しようとしているか?
  2. 遺留分の放棄に合理的な理由と必要性はあるか?
  3. 遺留分に見合う代償財産等といった遺留分放棄の見返りがあるか

本人の意思に反して遺留分放棄を強制したり、本人に黙って勝手に手続きすることはできません。また、被相続人と相続人との間で納得していたとしても、そのことを理由に裁判所が許可することもありません。

大きな効果を生じさせるものの為、裁判所が遺留分放棄が正当であると認める相応の理由が必要となります

許可、不許可が決定すると裁判所から申立人に通知書が郵送されます。また、依頼すると証明書を発行してもらえます(遺留分放棄許可証明書)。必要な場合は依頼しましょう。

例2の場合 相続開始後に遺留分を放棄する

相続開始後に遺留分放棄の手続きをするには、家庭裁判所への申し立ては不要です。たとえ遺留分が侵害されていたとしても自動的に請求が行われるわけではなく、請求する必要があります。そして侵害分を請求するかしないかは、自分で自由に決めることが出来るからです。

*『放棄します』と言わなくても、遺留分の請求の期限である1年間を過ぎると時効となり、放棄したことになります

一般的には相続人の間で合意書を作成したり、遺留分を侵害する相手に対し遺留分を放棄する旨を書いた通知書を差し入れる等の意思表示が行われます。

相続は遺産の全てを平等にきっちり分けることが必ずしも最適とは限りません。財産の内容や相続人の状況により、様々なのが相続の難しいところであり、相続対策が大事とされる理由だと思います。

遺留分放棄が有効な方法なのかはケースバイケースです。一度放棄すると撤回するのは難しいため、専門家に相談しながら、当事者同士でよく考え、話し合うことが大切です。

遺留分の放棄という方法をとることで、遺産分割の自由度が高まる可能性もあります。相続を争族にしない為の相続対策の手段の一つとして考えに入れておくのもいいのではないでしょうか。

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