『定期借家契約』のはなし(後編)

不動産/建築用語

定期借家契約のはなしの後編です。
前編では定期借家契約とはどのような契約かということ、普通借家契約との違いについて等をお話ししました。

『定期借家契約のはなし(前編)』はこちらから読めます。よろしければご覧ください↓

後編では定期借家制度のメリットやデメリット、よく話題になるトラブル例などについてお話しします。

定期借家契約のメリットとデメリット

定期借家契約のメリット、デメリットにはどんなものが考えられるでしょうか。

メリット

入居者管理がしやすい …例えば常習的に家賃を滞納する、トラブルを起こす等問題の多い借主がいた場合、普通借家契約では退去してもらうのもなかなか大変でした。
定期借家契約では、期間満了後に再契約しないことができ、問題の多い入居者等に出てもらいやすくなります。その為、より良好な住環境を入居者に提供することになります。
1年未満の契約が出来る…定期借家契約は、例えば1か月や、6か月の契約期間を定めることが出来、マンスリーマンションの契約をすることも可能です。
家賃の減額をしない旨の特約を盛り込むことが出来る…家賃を固定することが出来ます

デメリット

入居者が敬遠し、部屋が決まりにくい可能性がある…定期借家契約は期間満了で契約は終了し、入居者は退去しなければなりません。再契約するかしないかは貸主・借主双方の合意で決まるので、普通借家契約と異なり貸主にも再契約をするかしないかの選択が出来ます。入居者管理がしやすい反面、借主から見るとお部屋を気に入っていてもっと住みたくても、貸主の意向によっては退去しなければならない可能性があるので、敬遠する人もいます。
決まりにくい場合は、家賃が低くなる可能性もある…特に住居では家賃が低く設定される傾向があります。
契約期間中は貸主からの中途解約は原則としてできない 

普通借家よりも書類が多い…契約締結時に『この契約は定期借家契約である』旨を記載した書面を発行します。また、契約終了の1年前~6か月前迄に終了通知が必要です。

国土交通省HP『定期賃貸借標俊契約書』より

定期借家契約で考えられる代表的なトラブル

定期借家契約で起こりうるトラブルとして、代表的なものが以下の2例です。

事例・1:貸主が定期借家契約の終了を通知したところ、借主への事前説明がなかったから普通借家契約であるとして契約の終了を拒まれた事例

経緯:貸主Aと借主Bの間で、5年間の定期賃貸借契約を締結。

契約時に媒介者Cは『契約の種類:定期借家契約*更新が無く、新たな賃貸借契約を締結する場合を除き期間の満了をもって契約は終了します(借地借家法第38条)』と記載した重要事項説明書の交付・説明を行いましたが、AよりBに対する借地借家法第38条2項所定の説明書の交付はありませんでした

契約の期間満了の6ヶ月前に貸主Aが借主Bに契約終了の通知をしたところ、借主Bは「事前説明が無かったので、この契約は普通借家契約とみなされるとの見解を複数の法律事務所から受けた」とし、契約終了を拒否しました。

その後貸主Aは、重要事項説明書が事前説明を兼ねることが可能であるとする国土交通省の通知(H30.2.28)を知り、借主Bへの事前説明は媒介者Cによる重要事項説明書の記載により行っているとして、定期借家契約の終了を理由にBに建物明渡しを求める訴えを起こしました。

事例・1

裁判所の判決
当該契約の『契約更新が無いとする特約は無効である』として、貸主Aの建物明渡請求を棄却

理由
①重要事項説明において貸主Aが行うべき事前説明が、媒介者Cの代行により行われた記録はない
②重要事項説明の際、借主Bが貸主Aからの事前説明を受けている認識を示す資料はない


この事例で裁判所は、定期借家契約の事前説明は貸主又はその代理人が行うこととし、借主が『この契約は定期借家契約である』と認識していたとしても、賃貸借契約書とは別に定期借家契約の事前説明の書面を交付・説明が無ければ、定期借家契約と認められず普通借家契約として取り扱うとしています。

2018年(平成30年)2月28日の国土交通省通知(国土動第133号・国住賃第23号)のなかで、既定の事項の記載がある重要事項説明書を交付、委任を受けた宅地建物取引士の重要事項説明で、事前説明書の交付と事前説明を兼ねると示されています

記載事項

1.この賃貸借契約が借地借家法(以下“法”)第38条1項の規定に基づく定期賃貸借契約で、契約の更新が無く、期間の満了により終了すること
2.重要事項説明書の交付が法第38条書面の交付を兼ねること
3.貸主から代理権を授与された宅建士が行う重要事項説明は、貸主の法第38条2項に基づく事前説明を兼ねること

*通知文では、このような場合には『貸主から、宅建士に対する代理権授与の書面提示があり、重要事項説明書を法38条2項の事前説明の書面を兼ねるものとして受領し、事前説明を受けた』旨の文章の入った書類に、借主の記名押印を得ておくことで、後日の契約更新に関する紛争防止に備えたほうが望ましいとしています (左図参照→)

定期借家推進協議会HP「国土交通省 通知文」より抜粋
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事例・2:定期賃貸借において、期間満了1年前から6ヵ月前までの間に、終了通知を出すことを怠り、契約満了後に通知した事例

経緯:貸主Cと借主Dの間で3年間の定期借家契約を締結。

特約借主が明渡しを遅延した時には契約終了日の翌日から明渡し完了日までの間の倍額に相当する損害金を支払うこと

貸主Cは借地借家法第38条6項に定められている契約の期間満了の1年~6ヶ月前までの間に送付すべきだった、『期間満了により賃貸借契約が終了する旨を記載した通知(終了通知)』を送付しておらず期間満了後3ヶ月半経過して初めて借主Dに対し、終了通知を行いました
通知から6ヶ月経過後、貸主Cは、借主Dに対して建物の明渡し及び特約で定められている損害金の支払いを求める訴えを起こしました

裁判所の判決

貸主が終了通知を期間満了までに行わなかった場合でも、定期賃貸借契約は期間満了によって間違いなく終了し、終了通知がされてから6ヶ月が経過した後は契約の終了を借主に対し主張できる』とし、訴えの一部を容認。

理由
①定期借家契約は期間満了によって間違いなく終了する契約であり、借主は契約終了とともに建物の占有権を失う
このことは終了通知が義務とされる契約期間であるか否か、また終了通知がされたかされないかで異なることはない
②但し、契約期間が1年以上の契約では、借主に終了通知が出されてから6ヶ月後までは、貸主は借主に対し、定期借家契約の終了を主張することができない。そのため、貸主が終了通知をしてから6ヶ月間は、借主は明け渡しの期日は延長される

判決では上記の内容に加え、
期間満了後、貸主から何ら通知も異議もないまま、借主が建物を長期にわたって使用継続しているような場合には、暗黙のうちに新たな普通賃貸借契約が締結されたとみる余地がある

との見解も示しています。

定期借家契約は、良好な住環境と、空家等の有効な活用を目指した制度です。
もちろんデメリットもありますし、普及率や認知度の低さもあって入居者が敬遠し、決まりにくくなる可能性があります。
ただ、普通借家契約ほど借主保護が強固ではない為、状況に合わせて上手く使うことで賃貸経営がしやすくなる可能性もあります。

それぞれがどういう契約形態で、どのような違いがあるのかをよく理解することで選択肢を増やし、良好な賃貸経営を行いたいですね。

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