東京都の不動産の賃貸借契約において、退去時の原状回復や入居時の修繕について、貸主、借主それぞれの負担はどのようになっているのでしょうか。
東京ルールとは何か
2004年10月より東京都で施行された「賃貸住宅紛争防止条例」の事をいいます。
*正式な名前は「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」という長い名前の条例です。略して「賃貸住宅紛争防止条例」または「紛争防止条例」等とも呼ばれます。
東京都の条例のため、通称『東京ルール』と呼ばれます。
増加傾向にあった賃貸住宅の原状回復や入居時の修繕をめぐるトラブルを防止するために、東京都が作った条例です。
賃貸住宅を借りようとする人に向けて原状回復の基本的な考え方や、実際の契約書において借主の負担がどうなっているのかについて、契約に先立って宅地建物取引業者が書面を交付して説明するように義務づけています。
*業者が東京都外にあっても物件が東京都内の場合は紛争防止条例の説明が必要です
何を説明するのか
契約時に宅地建物取引業者が借主に対して説明するのは以下の内容になります。
- 退去時における住宅の損耗等の復旧について(原状回復の基本的な考え方)
- 住宅の使用及び収益に必要な修繕について(入居中の修繕の基本的な考え方)
- 実際の契約における賃借人の負担内容について(特約の有無や内容について)
- 入居中の設備などの修繕および維持管理に関する連絡先
*住宅を借りようとするものが宅建業者である場合は、書面の交付のみで、説明は不要
原状回復の基本的な考え方
一般的な賃貸借契約には「借主は退去後貸室を原状に復して明け渡さなければならない」という定めがあります(原状回復義務)
とはいえ借りた当時とまったく同じ状態に戻せ、ということではありません。
国土交通省が公表している『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』では原状回復を以下のように定義しています。
原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による、損耗・毀損を復旧すること
国土交通省 住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
退去時の費用負担について
一般原則
賃貸人(家主)側が負担するもの
経年変化及び通常の使用による損耗、キズ等の修繕費
例:
- クロスが日焼けして変色した
- テレビ・冷蔵庫など電化製品の後ろの電気やけ 等
賃借人(借主)が負担するもの
故意・過失・善管注意義務違反・その他通常の使用を超えるような使用による損耗等の修繕費
例:
- 壁、床に穴をあけた
- 引っ越し作業、又は日常生活でうっかり引っ掛けて壁や床に傷をつけた
- エアコンなどの水漏れを放っていたために壁や床が腐ってしまった 等
特約について
貸主、借主の両者が合意することにより、一般原則とは異なる特約を定めることができます。
特約があるときは、A-2の部分に記載されます。
*当事者間で自由に決められるといっても、どんな特約でも認められるわけではなく、通常の原状回復義務を超えた負担を借主に課す特約は、内容によっては無効とされることがあります。
特約を課す時の要件として、東京都住宅政策本部のトラブル防止ガイドラインでは下記の3点をあげています。
- 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
- 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
特約例
- 賃借人は貸室退去後、室内清掃を賃貸人の指定する業者で行い、その費用○○円を負担する
- 貸室内の煙草の汚れなどに伴う毀損は賃借人の負担とする
居住中の修繕についての考え方
貸主は借主がその住宅を使用し居住していくために、通常の使用に支障をきたさないよう、設備などの修繕をおこなう必要があります。
但し、借主の故意・過失、又は通常の使用ではないような使用をするなど、借主に責任があるような場合は、貸主負担ではなく借主負担で修繕を行います。
賃貸人(家主)側が負担するもの
借主がその住宅を使用し、居住していく上で、必要となる修繕の費用
賃借人(借主)が負担するもの
- 借主の故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、借主の責任によって生じた損耗やキズなどの修繕費
- 故障や不具合を放置したり、手入れ
を怠ったことが原因で、発生・拡大した損耗やキズなどの修繕費
また、貸主、借主の合意の上、小規模な修繕を借主の負担とする特約を定めることもできます。
特約例
電球や蛍光灯、給水栓、排水船(パッキン)の取替えなど、費用が軽微な修繕については、借主の負担とする
小規模な修繕は、貸主にわざわざ承諾を取らずに修繕できる方が借主にも都合が良いとの考えから、貸主の修繕義務を免除する特約が認められています。
その為、借主が自己の費用で修繕を行うことができますが、これは義務ではないので、修繕するかどうかは借主が決めることができます。
下記のサイトもご覧ください↓
- 賃貸住宅トラブル防止ガイドライン:https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-23-00-jyuutaku.pdf
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf