相続の納税対策

節税には積極的になられる方でも、意外と納税対策を失念している方がいらっしゃいます。節税により相続税評価額を圧縮できても、相続税が0円にならない方もいらっしゃいますし、物納には厳しい要件を満たさなければならない事をご存じない方もいらっしゃいます。

まずは、ざっくりとでも以下のことも常に頭の中に入れておく必要があると思います。

相続税がかかるのかどうか?
かかるとしたらどれくらいか?

平成27年1月1日以降、相続税法が変わり、基礎控除額等が減額され、一部の方が増税になります。また、平成26年12月31日までの法適用では、税金を納めなくても良かった一部の方が、相続税を納めなくてはならなくなりました。

もちろん、資産家の中には、毎年相続税評価額や相続税額を顧問に求めている方もいらっしゃるかもしれませんが、それ以外の方々でも、財産構成に大きい変動があった時は、専門家による試算をお勧めします。

相続税の支払い方法はどうするのか?(資金調達の方法)

具体的な支払方法を先に決定してしまうということではありません。この項では、現在認められている納税方法、納税資金の調達方法を把握し、いざ相続が発生した時に、相続人が複数の選択肢から選べるよう準備する事が必要であることを認識してもらいます。

相続発生のタイミングは読めません。その時の税制、金利、不動産相場の動向によって、どのような選択がベストかは変わってきます。また、ご家族の状況、経済状況などによっても、どのような納税方法がベストかは変わってきます。

長老格の方の責務として、相続人達により多くの選択肢を与えられるような資産状況に整えていく事が重要だと思います。
代表的な方法を下にあげましたが、共通している事は「不動産を整理整頓しておくと、納税対策的に選択肢が多くなり、有利になる」という事です。特に、不動産が多い地主さんの中には、様々な外部要因により、今までの資産の価値が変動している事に気づいていない方もいます。

外部要因をおおざっぱに言いますと

  • 昔に比べ、借地権、借家権が強化されています。
    借地借家法/消費者契約法/収益物件評価の厳格化/立ち退きは慎重に
  • 昔に比べ、不動産売買取引が厳格化されています。
    登記、境界確認、融資、重要事項説明における告知義務、売主担保責任
  • 昔に比べ、建築業務全般が厳格化されています。
    不動産価値に影響、近隣配慮、接道間口による建築物制限

等々の傾向が今まで続き、今後も厳しくなる事はあっても緩和されることはないでしょう。

そのような外部環境の中で、不動産の整理整頓をどこまでしたら良いのでしょうか?不動産の整理整頓に関しては不動産の整理整頓をご覧ください。

延納

おおざっぱに言いますと、相続税の分割払いです。
しかし、国からの借入的な側面もあり、担保はしっかり取られます。もちろん担保に取るものの要件も決まっており、その中には不動産も含まれます。

手持ちの現金で支払いきることのできない場合の選択肢の一つです。その時々の民間金融機関からの借入と天秤にかけられることが多いです。

普通に不動産を管理していれば、担保割れする事はあまり考えられませんが、むしろ延納制度に頼り切った考え方で節税納税対策に取り組む事の方が危険です。将来、延納制度がより厳しく運用される可能性もあるでしょうから。

借入・不動産担保融資(民間金融機関)

「延納」と天秤にかけられる方法です。
民間金融機関といっても様々で、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合等があり、それぞれに特徴があります。また、景気動向にも影響を受けますので、あくまで、手段の一つとして考慮すべきでしょう。

日頃より民間金融機関と取引がある場合や、不動産が整理整頓されている場合、有利な条件を引き出せる場合があります。

物納

物納をあてにされている方で「固定資産税評価額が付いてる = 国が価値を認めている」と勘違いされている方がいらっしゃいます。そもそも、固定資産税は地方税で、相続税は国税です。課税価格の算出の為に、元をたどれば公示価や基準地価などの同じようなデータを使っているかもしれませんが、税を徴収する主体が違います。

地方税と国税で共通なのは「規則に則り、出来るだけ厳正に税を徴収する」「特例や軽減措置を知らない方からは普通に徴収する」(今では親切に教えてくれる行政窓口もあります)ぐらいで、評価基準、評価方法、例外に対する柔軟性等はバラバラです。
地方税には地方税なりの思惑、都合、運用方法、対応があり、国税には国税なりの思惑、都合、運用方法、対応があるということです。

実際に、予想時価額数百万円の再建築不可の土地が、固定資産税評価額2,000万円以上、相続税評価額2,000万円以上という事例もあります。もちろん、要件を満たしていないため、物納は無理な事例でした。

物納するためには、様々な要件をクリアする必要があり、イメージとしては「売れる不動産、売りやすい不動産でなければ物納として受け付けてくれない」という感じです。もちろん、再建築不可の土地の場合、物納は非常に難しいでしょう。

将来、物納の要件もさらに厳しくなる可能性もありますので、当然、物納に頼り切った考え方で、節税納税対策に取り組む事は危険です。

処分・売却

物納と天秤にかけられる方法ですが、物納における評価額と、一般売却における時価額は、相当な隔たりがある場合があります。

物納における評価は、要件は厳しくても、それほど乱高下するようなイメージはありません。
しかし時価額は、計算式で表せる税務評価と違い、さらに様々な個別条件を加味しなくてはならないため、整理整頓されているか否かという事も含め、かなり価格幅は広くなるというイメージです。

不動産が整理整頓されていれば、時価額も高くなり、相続後の有期の税特例も合わせると、物納よりも「処分・売却」の方が有利になる事もしばしばです。

現金

この方法が、遺族には一番ありがたい方法かもしれません。

相続税評価も100%のため、現金を残すためには、マイナスの100%評価になる借入と評価上の相殺をしながら、残されると良いでしょう。

現金のような流動性資産があると、納税費用以外でも、葬祭費用、測量費用、相続人間の調整金、各専門家への報酬費用等への支払いにすぐに充てられます。