相続放棄のはなし(後編)

不動産/建築関連用語
不動産/建築関連用語

前編では相続放棄とはどういうものか、どのような手続きで行われるのかをお話ししました。
さて、自分が相続放棄をした場合、そのあと遺産はどうなるのでしょうか。

『相続放棄のはなし(前編)』はこちらからご覧ください↓

放棄すると財産はどうなるのか

例:1

配偶者と子(1人)が相続人で、子が相続放棄をした場合…

第一順位の相続人がいなくなると次の第二順位の相続人である親に相続権が移ります。
*この時、親が亡くなっていて祖父母が存命だった場合、相続人は祖父母になります(これを代襲相続と言います)

第二順位の相続人も相続を放棄したら、第三順位の兄弟姉妹に相続権が移ります。
*相続を放棄した場合、代襲相続は行われず、その順位の相続人が他にいなければ次の順位に相続権が移行します

例:2

左図のように、複数いる子のうちの一人が相続を放棄した場合…相続権が次の順位に移ることはなく、配偶者とその他の子が相続人となります。

相続放棄すると最初から相続人でなかったことになり、配偶者ともう一人の子で1/2ずつ相続します。
*但し、相続税の計算では、放棄した子も含めた人数で計算されます

相続放棄した時、他の相続人に通知するべき?

相続放棄は限定承認のように他の相続人と共同で行う必要はなく、単独での手続きが可能で、相続放棄が認められた場合でも他の相続人や債権者への通知義務はありません。

しかし、裁判所から他の相続人へ通知されることもないので、通知しないままでいると他の相続人がいつまでも相続放棄したことを知らない可能性もあり得ます。後の無用なトラブルを避けるためにも通知しておいたほうが良いと思います。
*弁護士等に手続きを頼んでいる場合は、他の相続人や債権者等に通知を依頼することもできます

相続人全員が相続放棄をしたらどうなるか

相続人が全員相続放棄した場合は、相続人がいないという状態になります。

遺言等が残されておらず、相続人が誰もいない場合、利害関係人等から申立てがあれば、家庭裁判所に『相続財産管理人』を選任してもらい、債権の清算や財産の管理を行うことになります(相続財産管理人制度)。

因みに…

例えば、被相続人の財産に不動産や現金等の財産があった場合、財産の管理が必要になります。
相続を放棄しても、次の相続人又は、相続財産管理人が財産の管理を始めることが出来るまでは、財産の管理を継続する必要があります。(民法第940条)

相続財産管理人制度とは

相続人の存在、不存在が明らかでない(全員が相続放棄した場合も含まれます)場合、利害関係人等からの申し立てにより、家庭裁判所が相続財産を管理する管理人の選任をする制度です(民法952条)

*遺言が存在し、遺言執行者が選任されている場合には遺言執行者によって遺言が執行されるため、相続財産管財人を選任する必要はありません。

相続財産管理人の仕事

相続財産管理人は相続財産を調査し、以下の仕事を行います

  • 財産目録の作成
  • 相続財産の管理、保存行為
  • 早急に処分が必要な財産の換価処分*換価処分には裁判所の許可が必要です 

申立てと選任の流れ→裁判所HP『相続財産管理人の選任』:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html

相続財産管財人は債権者を確定し、家庭裁判所の承認を経た後に、弁済の手続きを行います。相続財産のうちのプラスの財産のみで完済できなかった場合、連帯保証人がいる場合は債権者は連帯保証人へ請求することになります。
*但し、申立には費用が掛かりますし、被相続人の財産によっては財産の管理費用や、相続財産管理人の報酬として申立人が相当額を納付する場合もある為、財産が殆どないと見込まれる場合は、そもそも申立てが行われない場合が多いようです

債権者や受遺者等への支払いや財産分与の審判がある場合はその分与などの手続きが全て終了した後、相続財産が残った場合、その財産は国庫に引き継がれます。

相続放棄を撤回することはできるのか

家庭裁判所に申述書を提出していても、裁判所で申述を受理する前であれば取り下げることは可能です。
但し、受理されると原則として撤回することはできません。しかし、一定の理由に該当する場合には、例外として取り消しや、無効が認められることがあります。

相続放棄が取消しになる場合
  • 未成年者が法定代理人の同意を得ずに単独で相続放棄した場合
  • 成年被後見人、被保佐人、被補助人が定められた方法以外で相続放棄した場合
  • 詐欺・脅迫・錯誤等、放棄の判断が相続人本人の本意では無かった場合

相続放棄が無効になる場合
  • 知らない間に無断で相続放棄されていた場合
  • 故人の財産を使ったり、処分した場合*この場合、『単純承認』したとみなされ、そもそも相続放棄ができなくなります

取消しができる理由があっても、定められた期間内に手続きを行わなければ、取消しは認められません。

相続放棄の取消しの手続き期限
  • 追認できる時から6か月以内
  • 相続放棄が受理された日から10年以内

注):追認できる時とは…『追認』は本来取消すことが出来る行為をもう取消さないものとして、契約を確約することを言います この場合、

  • 強迫により相続放棄した場合は強迫状態が終了したとき、
  • 詐欺による場合は本人が詐欺によることを知ったとき、
  • 成年被後見人については本人が能力を回復して相続放棄を知ったとき を指します

単独で、又は全員での相続放棄は、債務の弁済逃れや相続したくない財産から逃れるための手段として安易に考えられることもあります。しかし放棄してしまえばそれで終わりかというとそうではなく、財産を相続財産管理人に引き継ぐまでは責任をもって管理していかなければなりません。

相続放棄の申し立て期限は3カ月以内であり、期限を過ぎてしまうと相続放棄は出来なくなります。近しい方が亡くなった後は、亡くなった手続きやお葬式の手配・対応等の他、ご自身の感情の整理も含めたくさんのことをこなさねばならず、期限はあっという間かもしれません。

焦って判断を間違えてしまうと大変です。万が一に備えて情報収集や話し合い、専門家にアドバイスを仰ぐなど、前もって準備しておくことがとても大切です。

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