不動産の整理整頓

良い不動産の状態とは?
登記・再建築・境界明示・権利関係の明確化

不動産とは一般的に動かすことが出来ない資産。
ですので、一般的商取引のような「支払いと商品引き渡し」の同時履行の方法とは異なりますし、二つとして同じ物がないため、法による取り扱いや評価が様々で、難解なイメージがあると思います。
そうした不動産の性質ゆえに、建物や敷地の見た目の状態の良さだけでなく、スムーズに相続、売却、借入をしやすい状態こそが、ここで言う「状態の良い不動産」です

「状態の良い不動産」を維持し続けるためには、定期的な不動産調査を行い、現状の不動産資産が抱えている問題点を把握する必要があります。なぜなら、不動産は変わらなくても、法や不動産商慣習は、時代により変わっていくためです。

総合的な診断により、所有する不動産資産が抱えている問題点を明らかにすることによって、的確な対策や平時における取り組むべき課題の優先順位を決定していくべきです。
いざ売却しなければならない時や、借入しなければならない時などに、その場しのぎの問題解決をしてしまうと、内在しているより大きな問題を見過ごしてしまうかもしれません。

次代に不動産を出来るだけ優良資産として引き継がせるためにも、できるだけ当代で問題解決しておくべきです。世代を経るごとに、抱えている問題は当然悪化していきます。

良い不動産の状態を維持しながら、不動産を含めた総合的な資産の「良い状態」を目指すべきではないでしょうか?

建物賃貸借契約書を調える
更新・再契約の度に、入居者情報を更新する

全ての借主との間に賃貸借契約書を交わしていますか?
また、更新契約や再契約ごとに借主の状況を把握していますか?

民法では、申し込みと承諾の意思表示により、契約は成立すると記載していますが、実務的には、口頭契約ほどあいまいで恐ろしいものはありません。

何のために契約書を交わすのか?
お互いの約束の証拠を残すためです。

何のために証拠を残すのか?
トラブルが起きた時の判断基準にするためです。

賃貸借契約は、年単位のかなり長い契約です。中には10年~20年と住み続ける方もかなりいます。そして、長い人生においては、いつ何が起こるかわかりません。
勤務先の倒産、リストラ、転職、ケガや病気などなど、借主本人が真面目で良い人達であっても、不幸な事が起こる可能性はあります。そして、不幸で悲惨な経験をすると、それまで「良い人」だった人が変わってしまう事もあります。
そのためにも、賃貸借契約書、保証状況、勤務状況、家族状況などを定期的に最新化すると共に、借主とのコミュニケーションをとっていくことが必要なのです。

借主は「賃料をいただいているお客様」でもありますが、状況が変われば「賃料を滞納し、違反占有し続けても強い居住権を持ち、立ち退きに賃料の何十倍も費用がかかってしまう」という可能性もあるということを忘れてはいけません。

土地賃貸借契約書を調える
更新の度に、契約条件の見直し。中長期計画。

建物賃貸借契約書と同様に、土地賃貸借契約書もお互いの約束の証拠を残すために作られ、有事の際にその有無が問題になります。特に建物賃貸借よりも長い期間の契約のため、その間に相続等が発生しやすく、世代間の引き継ぎ書類としての意味合いも大きいのです。

また、契約期間内に地代の金額変更や相続による真正名義人の変更など、契約書では表記しきれないことや、地主、借地人との関係性や地域性による相場のばらつきも多く、その内容も不動産業者を介さずに行われることも多いので、一般論だけで対応することが難しいという特徴がある契約です。そのため、契約書だけでなく、その他の付随書類も一式として、保管及び引き継いでいかないと次世代の方が困ることが往々にしてあります。

境界を確定しておく。
地積更生・道路境界確定・私道寄贈・無償使用承諾。

境界確定とは、境界に接する全ての土地所有者が「そこが境界線や境界点である」と認めている状態のことです。
つまり「境界確定が出来ている状態」とは「境界紛争がない状態」と言い換えることができます。

昨今の売買契約では、境界確定を求められることが多く、
■ 境界確定できている土地
■ 境界確定していない土地
■ 境界確定できない土地

では各々市場価値が変わってきます。

また、最後に測量した時期が古いと、測量精度や道路境界線の曖昧さなどが原因となり、実際の土地の面積と登記簿の土地の面積に差が出てしまうことがあります。
そのような時は、地積を正しい面積に直す「地積更生登記」「道路後退部分の分筆」を行う事により、部分的な非課税化や節税につながる事もあります。

現在、ほとんどの行政が、道路幅4m以上を確保するための「道路後退部分の設定」を厳格化しており、「公図上、自分の所有敷地だから所有権境界ぎりぎりまで土地を使う」という考え方は、社会的にも、法令上も、制度としても今は通用しません。
道路後退部分の設定タイミングは、新築する時が多いのですが、「その時にしかしてはいけない」というわけではありません。余裕のある時に取り掛かっても良いと思います。

また、地主様の悩みの一つに「所有私道の管理」があります。

「通行掘削承諾」「排水管」「舗装」等の煩わしさや負担から解放されるために、私道の行政への寄贈を目指している方もいらっしゃると思いますが、その要件には「境界確定」「地積更生」「相続登記済」等があります。

「寄贈される行政が諸経費を負担することは当然だろう」と思われる方もいらっしゃると思いますが、行政の財政状況や私道管理の負担を避けるために、かつてよりも、要件が厳しくなり、かなり高いハードルを設けている行政もあります。

より良い不動産資産を子孫に残すためにも、前向きにできることから解決していきましょう。

建物の未登記問題

現金で建物を建てられる方で「建物は未登記で良い」と考えられている方がいらっしゃいます。

まず、建物の表題部登記は義務です。

表題部登記をすると、登記所から固定資産税を所管する行政庁に自動的に連絡がいき、固定資産税評価額査定のための連絡が建物所有者に来ます。
たとえ表題部登記をしないとしても、ほぼ100%連絡が来るでしょう。なぜなら、固定資産税を所管する行政庁が、航空写真調査や現地調査などを独自に行い、建物所有者を特定するからです。

また、未登記のままで借り入れを起こす場合に、まず表題部登記、次に所有権保存登記、そして抵当権設定登記という順番で進むため、新築時から時間が経っていると、証明する書類の不備等により、融資までに余計な費用と余計な手間暇、時間のかかる事が多々あります。

登記は「所有権を表明する」「所有権を(ほぼ)証明する」意味合いがあるため、建物が未登記の場合、誰の所有物なのか一見してわからず、その所有権を第三者に主張するためには、様々な書類を提出しなければなりません。
それら書類は、建築確認申請書類一式・建築確認済(通知)証・建築工事請負契約書・建築工事の領収書・建築工事業者からの印鑑証明書付引き渡し証明書・本人確認書類等です。
未登記建物を相続した場合、相続登記が未了の間は、遺産分割協議書類一式が、前述の書類群に加わることにより、ようやく第三者に所有権を主張できる用意が整うことになります。

売却や賃貸借の現場において、未登記建物は、物件の権利の特定が困難な状態であるため、当然、相続した次代の方々もいざという時には、苦労することになり、余計な出費も発生する事になります。
お金が足りなくて足りなくてしょうがないという事態でもない限り、相続したり代理管理したりする次代のためにも、建物の登記はしておくべきです。

相続登記未了問題

これは、遺産分割協議が調わない時や、私道などの非課税地、未利用の不動産などで散見されます。

「相続登記をしなくても実害は無い」と考えていらっしゃる方もいるようですが、それは短絡的な考えです。
いざという時に動かせない、動かしづらいリスクが高まるだけではなく、悪化すると不動産利用の選択肢も狭まります。

例として、4代ほど前に協議が調わなかったせいか、相続登記が出来ず、今や推定相続人が100名を超え、測量、分筆、借入、売却等が出来ない土地もあります。
また、何代も前の相続時に、私道の登記をし忘れており、隣接地を処分する時に、二代・三代分と相続登記をしなければならないケースもあります。

※前面道路(私道)に所有権持分が無い土地は、時価評価が下がります。

分筆・区画整理・接道を確保する
越境状況を解消する。近隣と仲良く。

平成17年の登記法改正により、土地を分筆する場合、残地分筆という手法が原則的に利用できなくなり、現在は、隣接地すべての境界確定と実測が必要になっています。
つまり、隣接地の所有者と不和であると境界確認書を交わせず「境界紛争有」とみなされ、分筆もできず、時価評価も下がる可能性が発生します。また、大きな一筆の土地を複数件の借地として古くから利用している場合、借地同士が入り組んでいて、未接道地、埋設管越境、空中越境が発生している事が多々あります。

そのような土地区画を測量し、整理整頓しながら分筆していくことで「問題の明確化」「所有地の本当の価値の確認」「不測の事態への柔軟な対応」等ができるようになります。
底地を売却したい時や借入したい時は、一時的にでもお金に窮している状態だと想像できるため、事前に分筆しておけば柔軟かつすばやく対応できます。

登記を正確に行う
住所変更・抵当権抹消・相続

これも長期間放置しておくと、難しい問題に発展していきます。

住所が一時的に外国になり、また帰国されている方の場合、証明書関係の取得が外国と郵送での手続きになることもあるため、住所変更登記にそれなりの時間と手間がかかります。

借入金を完済した後に抵当権設定登記を放置しておくと、金融機関の統廃合が起きたりして、登記の抹消に非常に時間のかかる事例もあります。

相続登記も、あまり長期間放置しておくと、次の相続が発生したりして、次代に煩わしさのつけをまわす事になります。

共有状態を解消する。

他の項目でも、度々紹介していますが、共有には、そのままでも良い共有状態と、解消しなければならない共有状態があります。

そのままでも良い共有とは、仲の良い夫婦の共有と子供が一人の親子での共有です。
そして解消すべき共有とは、兄弟共有と他人共有(私道等は除く)です。

相続の観点からも、不動産利用の観点からも、兄弟共有は避けた方が賢明です。兄弟共有になってしまった場合、様々な解消方法がありますが、一番多く悲しい結末は、共有地すべてを「売却し、お金で分ける」という方法です。

せっかくご先祖から引き継いだ土地であり、売却したくないという方は多いのですが「兄弟間における公平な分配の妥協点」がお金になってしまうのは往々にしてあることです。